確定拠出年金 (以下DC) は, 老後まで解約できない代わりに, 税制上の優遇がある資産運用方法だ.
「
年利15%でふやす資産運用術」という本があるが, 本当に薦められる投資なのか考えてみた.
確定拠出年金の概要
まずこの制度の概要を以下に述べる.
拠出時に, 拠出額が課税所得から控除される.
つまり, 拠出額 x 税率が実質的な利益になる.
DC用の投資信託や定期預金などで運用でき, その間でのスイッチングができる.
1社でしか加入できないし, その会社の指定した数少ない商品で運用するしかない.
運用益に課税されない.
DCでなく一般に運用した場合, 譲渡所得等として20%の分離課税になる.
60歳までは解約できない.
老後の受け取り時, 税制上の優遇がある.
一時金で受け取ると, 退職所得控除を使える.
年金として受け取ると, 公的年金控除を使える.
別の見方をすると, 課税を先送りにして各種控除を利用するということ.
受け取り時の控除
拠出額が控除, 運用益は非課税.
しかし, これらの合計を受け取るときには退職金・年金などとして課税される.
つまり, 受け取り時に各種控除に収まる額に抑えなければ, 節税効果は得られない.
受け取り時に各種控除の条件が変わっているというリスクも考慮する必要がある.
若手-中堅程度の年齢から加入する場合
30歳から40歳くらいで加入を検討することを考える.
これくらいの年齢だと, 結婚・子供の進学などに要する将来の出費がまだ見通せないだろう.
そのような状況で, 60歳まで解約できない商品へ積み立てるのは大きなリスクといえる.
さらに, 運用期間が長いので, 課税所得からの控除はさほど大きくない.
例を挙げて節税効果を考えてみる.
40歳から60歳まで1年あたり30万円を積み立てるとし,
税率が20%であるとする.
このとき, 節税は20年間で120万円となる.
一方で, 運用元本は, 1年目の30万円から20年目の600万円まで増えてゆくので, 等差級数を計算すると, 6300万円年になる.
すなわち, 定年までの年利 (YTM; year-to-maturity に相当) は, 120万円 / 6300万円年 = 1.9%/年 となる.
日経225-indexなどでパッシブ運用するとした場合, 3%/年くらいのリターンが期待される.
これに20%が非課税と考えると, 一般に運用した場合の3.75%/年に相当する.
一括で受け取るとした場合, 3%/年の運用分を含めて789万円貯まっている. もし他の退職金がこの年になければ, 非課税枠800万円ぎりぎりの額だ.
これらを合わせると, 5.65%/年にしかならない. 本記事執筆時点では,
HYGの配当と同程度だ.
60歳までDC内でしか運用できないという流動性の低さを考えると, 積極的な利用はためらわれる.
流動性のある資産を持った上で, ポートフォリオの一部としてDCを利用するのが良いだろう.
高齢で加入する場合
50歳から加入して積み立てる場合はどうか.
60歳満期まで定額を拠出する場合のYTMを計算すると, 3.6%/年 になる.
個人の資産運用の定石として, 若いときはハイリスクハイリターン・老いてくるとローリスクローリターンと言われるので,
確定拠出年金内では年金保険か定期預金として運用するのが良いだろう.
10年満期で, 年金保険程度のローリスク, 3.6%/年の金利が上乗せという高条件が揃う.
まとめ
若い内から加入する場合, 60歳までDC外へ資産を移せないという流動性の制約に対し, YTMが6%にさえ満たず低い.
DCへの投資は少額に留めるべき.
定年が近づいてから加入・拠出する場合, 60歳満期までの期間が短く, ローリスクでありながらYTMが3%を超えることも期待できる.
定年間近の加入, 企業型DCの加入者であれば定年間近の拠出額増が望ましい.